文横だより2025年2月号

文横だより 2025年 2月号
 
先月の読書会のテーマ、ジョン・アップダイク『フィラデルフィアの友だち』を読んだ際に、
真っ先に浮かんだのはオー・ヘンリーの『マモンの神さまとキューピッド』であった。
十代の頃に読んだオー・ヘンリー短編集の中の一番お気に入りの一編である。
お金で買えないものはないと言う大富豪の父親に対し、息子が愛はお金で買えないと反論する。
息子には結婚したい彼女がいるが、会えるのは馬車で目的地に送る僅かな時間のみで、彼女は遠くへと旅立つところである。
ところが送っている最中の道路に大渋滞が発生したため、二人はじっくり話ができて婚約することになった。
その翌日、父親の元に男が現れ、渋滞を起こすためにかかった費用を請求する、という話である。
 
『フィラデルフィアの友だち』では、お金持ちは娘の父親の方で、
その父親が(教養は豊かだが貧しい父を持つ)彼を憧れの高級車に乗せ、さりげなく非常に高価なワインを渡す。
それに対する彼の明瞭な反応や後日談は記されていないため、解釈が様々に分かれることになる。
実際に読書会では、金持ちの父親を傲慢と捉える派と愛情深いと捉える派に解釈が大きく二分された。
筆者はオー・ヘンリーを思い出した通り後者の立場であるが、解釈は自由だし分かれるから面白い。
またそうした作品にこそ名作が多いと思う。
 
     ★
 
文横だより2025年 2月号をお送り致します。
 
◆2月の読書会スケジュール
日 時:  2月 1日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『冥途』及びその他の短編 内田百閒
担当者: 鶴見さん
 
出席者:(リアル)(敬称略)
鶴見、篠田、佐藤、江頭、藤本、中根、林、森山、藤原、寺村
野田、中川、山口、小鍛冶、遠藤(悟)、酒井 / 赤川(見学者)
  
「掲示板」からの参加(敬称略)2/1現在
鶴見、酒井、成合、藤原、清水、遠藤悟、佐藤、阿王、
 
以下、読書会担当者・鶴見さんより
 
「冥途その他の短編」のまとめ  担当/山口愛理
 
『冥途』その他の短編について
「文学の極意は怪談である」という言葉がある。日本では古くは『雨月物語』や『遠野物語』などに端を発するものかと思う。また、「わび」「さび」「幽玄」という日本独自の概念があるが、「幽玄」とは物事の趣が奥深くはかりしれないこと。幽には、かすかなという意味があるが、百閒の作品群はまさしく儚く幽かな世界を描いていて秀逸だと思った。
日本文学の本流からするとこれらの短編(掌編)は枝葉のようなものに過ぎないのかもしれない。だが、他に追随を許さない個性的な作風は群を抜いていると私は思う。
内田百閒の世界は一言で言うと「シュール」。シュールというのは超現実主義(シュールレアリスム)という絵画などの芸術的概念の言葉の略語だが、現実の上を行くという意味。まさしく、理性をぶっとばして、不条理な世界をみごとに幻想的に表現している。
また、会話文にしても削り方が抜群にうまい。説明しないで、表現でわからせることの難しさを簡単にやってのけているように感じる。また、小説には伏線やその回収自体がないのだが、すべてを読者にゆだね、考えさせている。悲しくても、怖くても、どこか呑気でユーモラス。暗い土手が分け隔てるこの世とあの世の間(あわい)を描いており、それでいて全く怖さは感じさせない。また、この世では果たせなかったのであろう父親への深い想いが漂う。それが読後感の良さにもつながっている。
皆様のご意見
・会話の削り方がうまい。説明しないでもわからせる。
・小説としての伏線回収はないが、読者に考えさせる。
・もう少し長い方が良い。その方が印象に残る。
・漱石の方が小説として読める。教訓がある。
・何の教訓もないが、それが文学的とも言える。
・夢をもとにしていて、夢判断的でもあり、道徳的葛藤がある。
・作者の人の好さ、素直さが出ている。
・『件』だけは小説らしいと思った。
・これだけ短い文章で作るのが凄い。コンパクトにまとめて書く力が凄い。
・主人公は生にいるのか死にいるのかわからない。その不安定さが冥途である。
・暗さと明るさの対比、光と影の使い方が良い。
・ぼんやりとしたあいまいな書き方、不安定な心理描写が上手い。
・技巧的だけど、読むときに技巧性を感じさせない。
以上、皆様、読書会にて貴重なご意見有難うございました。
 
ホームページの掲示板には読書会のレジュメとまとめの両方がアップされています。
 
◆3月の読書会スケジュール
日 時:  3月 1日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『飛ぶ教室』 エーリッヒ・ケストナー
 担当者: 山下さん
 
◆4月のスケジュール『文学横浜』第57号合評会/総会/懇親会
[合評会]
日 時:  4月 6日(日) 9時30分集合 昼食をはさみ午前・午後両方の実施
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『文学横浜』第57号
[総会]
日 時:  同日 16時20分から開催
場 所: 神奈川県民センター内、合評会と同会議室
[懇親会]
日 時:  同日 18時30分から開催
場 所: 『北海道』横浜天理ビル店
   
◆5月の読書会スケジュール
日 時:  5月 10日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『終電は1時7分』 井上荒野 『夜を着る』(文春文庫)所収 
担当者: 武内(原)さん
 
◆6月の読書会スケジュール
日 時:  6月 7日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: (未定)
担当者: 河野さん
 
◆7月の読書会スケジュール
日 時:  7月 5日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: (未定)
担当者: 清水さん
 
◆8月は休会
 
◆9月の読書会スケジュール
日 時:  9月 6日(土)17時〜19時
場 所: 神奈川県民センター内、会議室
テーマ: 『樹影譚』 丸谷才一 文春文庫の作品集「樹影譚」収録(川端康成賞受賞作品)
(担当者より)「アマゾンやブックオフなどで、まあまあ安価に購入可能です。
図書館を利用できる方は、さまざまな書籍に収録されています」
担当者: 藤原さん
 
◆10月以降の読書会担当者
(敬称略)寺村、野田、中川、岡井、山口、福島、中根、篠田、佐藤、小鍛冶、
阿王、成合、遠藤悟、森山、酒井、藤本、鶴見
の順となります。
担当者はテーマが決まりましたら篠田までご連絡をお願い致します。
注)ご辞退、順番の変更等がありましたら、調整しますのでご連絡をお願い致します。
  また漏れや今まで辞退していたが担当ご希望の方がありましたら、ご連絡をお願い致します。
注)担当者は原則リアルにもご出席をお願い致します。
 
◆読書会テーマについて
原則としてできるだけ短編が望ましいです。
同じく本は安価で購入できることが望ましいです。
ただし上記について例外を認めない訳ではありません。
 
過去に取り上げたテーマについては旧「文学横浜の会」Webページ
http://www5a.biglobe.ne.jp/~bunyoko/
の「読書会」→「これまでの読書会」の順にクリックしてご参照願います。
お問い合わせ、ご相談はお気軽に直接TELまたはメッセージでも大丈夫です。
   
連絡先 篠田まで
AD <taizo_shinoda@chic.ocn.ne.jp
TEL  090-3146-3077
 
以上、篠田

流鏑馬 曽我梅林 2017年2月 (中川撮影)
2025/2/10