10月読書会報告

『生まれ出づる悩み』(有島武郎) 担当 克己黎

2024年10月度 文学横浜の会 読書会
●課題図書
有島武郎(ありしまたけお)
『生れ出づる悩み』(うまれいづるなやみ)
・新潮文庫・昭和30年 ほか

●発表者 克己黎(かつみれい)→阿王陽子

●発表者からの設問
自由な感想を述べてください。また①と②もよければ教えてください。
①p.33.3行目〜p36.1行目を読んで思う所を述べてください。
「どうでしょう。それなんかは下らない出来だけれども」〜「素直な子供でもいったような無邪気な明るい声だったから。」
②p.37.6行目
「画が好きなんだけれども、下手だから駄目です」の意味を述べてください。

【読解のポイント】
「私」と「君」の共通点はどこだろうか
→芸術に純粋であるところ
「私」と「君」の違いはどこだろうか
→裕福な生活に困らない作家の私(有島武郎)と生活に困り漁村で生活しながら絵画を描く芸術家になりたいともがいている君(木田金次郎※木本君)
ブルジョアジーとプロレタリアート


●私からみた、君
「何んという無類な完全な若者だろう」p.50.後ろから3行目
「食後の茶を飯茶碗に二三杯続けさまに飲む人を私は始めて見た」p.51.11行目

→「仁王のような逞しい君の肉体に、少女のように敏感な魂を見出すのは、この上なく美しい事に私には思えた」p.57.後ろから3行目

→君は何かを渇望してやまない枯渇や、少女のように敏感で純粋な魂がある、仁王のように屈強な肉体的な男性


●私は君を忘れてはならない(p.65.12行目)→なぜならないのだろうか
→北海道岩内での生活をしながら芸術家になりたい二重生活をしている彼が、理想と現実の間のジレンマに悩む様子から
トルストイ、ゴーリキー、イプセン、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」などの影響から、裕福であるがゆえに私も労働者階級への支援をすることで、聖と俗とのバランスをたもちジレンマ、相剋かを悩んでいる。

●君の現実の生活
「悲壮」「諦め」「地獄」「惨め」「苦労」→新聞掲載小説なため、バリエーションが続く書き方となっている。

●ほんとうに生は死より不思議だ(p89.8行目)
→生は死より苦しい修行である。

●第九章にすべてが詰まっている(第五章から第八章は新聞掲載小説ならでは。)
「君が一人の漁夫として一生を過ごすのがいいのか、一人の芸術家として終身働くのがいいのか、僕は知らない〜神から直接君に示されなければならない〜冬の後には春が来るのだ」

●なぜ、君なのか
理想と現実の相剋に悩む君(すべてのひと)にあるジレンマに、エールをし、応援するメッセージがある。


【有島武郎と木田金次郎】 
●「二つの道」
有島武郎  赤い道、青い道→一房の葡萄
父親→鹿児島の人、大蔵省→感情
母親→南部藩岩手の人→理知

英和学校(ミッションスクール)に通いキリスト教
一方家庭では弓道、馬術や大学、論語を学び儒教的教育
→二面性

札幌農学校

聖書と性欲
霊と肉
神と悪魔
二つの間の相剋に悩まされる

男子と親しく自殺未遂

1923(大正12)9月、人妻・波多野秋子と軽井沢で縊死。

●木田金次郎をバックアップ

木田金次郎をモデルに1918(大正7)『大阪毎日新聞掲載』にて『生れ出づる悩み』掲載開始

1919(大正8)木田金次郎氏習作展覧会を東京、有島邸内で展示。収益111円40銭を木田に送金。木田は絵の具を購入。

1922(大正11)有島農場開放。木田は有島を訪ねる。

1923(大正12)有島45歳で心中。木田は葬儀に列席し画業に専念する意志を固める。

現在、
1、有島記念館(北海道虻田郡ニセコ町字有島)

2、木田金次郎美術館(北海道岩内郡岩内町)

がある。


参考文献 

1、『有島武郎』(高原二郎・清水書院・1966)

2、『生れ出づる悩み』を読む〜有島武郎と木田金次郎のクロスロード(有島武郎・木田金次郎プロジェクト編・北海道新聞社・2018)


【読書会参加者より感想】
・漁師や農民は地に足をつけた生活
・漁の描写がリアル、迫力、ただしバリエーションが多すぎる
・緻密さ
・真摯さ
・熱量の多さ
・第六章が動、八章が静
・八章に泣きそうになった
・長塚節や森鴎外の影響



否定的な意見
・若い頃にしか書けない芸術至上主義
・まじめすぎ
・今の時代にはさらりとしたものが好まれる
・感傷の垂れ流し
・青臭い
・退屈 

ほか
・里見弴→遊び人
・森雅之→名優


半年間準備をし、当日は徹夜明けでしたが、充実した2時間の読書会となり、感無量でした。

克己黎 2024.10.9

2024/10/10